2頭になるべく遅れないよう、わたしも全力で走った。
ブラックドラゴンの件があってから、持久力を上げるために走り込みの距離を増やしてる。だから、5km程度ならば全力疾走も問題ない。
ブラックドラゴンの警告があった通りに、湖付近から怪しい気配を感じる。だんだんと距離は離れてはいるものの、警戒は怠らない。
湖からかなり距離を取った瞬間、本能が最大級の警戒を発してきた。
(……来る!)
帯剣していたブラックドラゴンの短剣の柄を握りしめると、すぐさま向き直り構える。
なにも無かったはずの地面から、大量の水が噴き出した。
けれども、その水は赤黒い上に黒い靄を……瘴気を纏っている。この空間に張られた高祖母様たちの結界に触れた途端、光に包まれ勢いは弱まるものの、とめどなく溢れ出る。
「アクア、仔馬を王宮へ!わたしのペンダントがあるから仔馬を護りながらそのうちアスター王子が駆けつけてくれるはず。急いで!」
「ブフッ」
アクアは一瞬、躊躇いを見せた。
母代わりでありパートナーのわたしが心配で、放ってはおけないんだろう。今まで苦楽をともにしてきたんだ。
でも、わたしはだからこそアクアを突き放す。
「アクア、行って。わたしを大切に思うなら、わたしだって同じくらいあなたたちが大切だ。だから、自分たちを大切にするために、助かるために……先に行って!」
わたしの叫びが、伝わったかわからない。
けれど、アクアは揺らめく瞳を向けながら……まるでお辞儀をするように頭を下げ、身を翻し仔馬の後を追った。
それで、いい。
アクアにはわたしよりも、子どもである仔馬を大切にして欲しい。



