ゼイレーム王宮の敷地内とはいえ、湖はかなり広い。
去年、アスター王子とともに初めて訪れた時にも感じたけれども、これだけ広大な自然をそのまま大切にしているのは素晴らしいと思う。

湖畔の奥まった場所にある小高い丘。森林に囲まれたそこは、人間には入りづらくアクアの足や舟でないと近づけない。そこには一本の大木が生えていて、ユニコーンが関わる度にガラスのベルのような澄んだ音が響いた。

ユニコーンの代わりに仔馬が棲むようになってからは、鳴ったことが無い。

「キュー」

アクアが木のそばに近寄ると、仔馬がすぐに姿を見せる。母馬にすり寄ると、甘えた嬉しそうな声を上げて御乳を口にした。
彼の想いを知ってしまった今は、その姿にいつもより胸が痛む。

産まれてまだ半年も経って無いんだ。人間で言えばまだ5歳にもならない子ども…なのに人間の都合で母馬と引き離されて、こんな場所で独りぼっち。寂しくないはずがない。日夜、泣いていてあたりまえだ。お母さんを求めてあたりまえだ。

彼を保護するためだと、存在を隠して無かった事にする……人間にとっては都合がいいかもしれない。けれども、彼らにはなんの関係もない。ただ、産まれてきた。命がある普通の仔馬と一緒なのだから。

ぎゅっと拳を握りしめる。

(やっぱり……無かったことになんて、できない。わたしは……仔馬とアクアを一緒に居させたい。だから……)

だから、国王陛下へアクアの仔馬の公表を具申してみよう……そう、決めた。