「アスター王子、わたし達も行きましょう」
原因であろう場所が気になるわたしがそう提案すると、アスター王子はティーカップを持ったまま「やめておけ」とおっしゃる。
「今、王宮内で一番安全な場所がこの離宮の中だ。下手に動いて事態が悪化しては元も子もない」
わたしも別にこの事件を軽くは考えてはいなかったけれども、彼がそう断言してしまうくらい予断を許さない事態なのだ……と実感する。
「オレがメダリオンに掛けている防御魔術も、短剣に宿るブラックドラゴンの魔力も、すべてに万能に対応できるわけじゃない。あまり敵を甘く見るな。勇気と無謀も時には紙一重ということを憶えておけ」
アスター王子がそんなふうに厳しい言い方をするのは、当たり前かもしれない。わたしは今の今まで戦いを経験してきて、すべてどうにかなってきたから今回もそれを当てはめるつもりだったけれども。
わたしを毒殺しようとしていた輩は、もしかしたらすでに王宮内に潜り込んでいるのかもしれない。もしもアスター王子やソニア妃並み…それ以上の魔術の実力者であれば、到底わたし1人で敵うはずがない。
もしも、わたしがいつも通り無謀な勇気でどんどん自分から動き首を突っ込めば、よりややこしく事態が悪化するだけ……か。
歯がゆいし情けないけれども、今はこうしてじっとしていることが最善なのかもしれない。



