「ぷはぁー…生き返る!」
模擬試合がようやく終わり、甲冑を脱いだフランクスが水を一気飲みして口元をグイッと拭った。
わたしは水筒を手に彼の隣に座る。
「お疲れさま。やっぱり実戦さながらの練習は緊張感も違うね。ランスを握る手が震えちゃった」
「……んなこと言って、連戦連勝してたのは誰だよ?」
フランクスにあきれ顔で言われたけれども、苦笑いを返すしかない。
「言ったろ?ぼくは負けるつもりはないって。ずっと王家の…王国の盾として守ってきたエストアール家の騎士だからね」
王国の創世から仕えてきた武家の子どもだから、尊敬するお父様の娘だからこそ、みっともない姿は見せられない。
それに、とわたしは内心呟いた。
(アスター王子のためにも……そして、将来王妃になる身。簡単に負けるわけにはいかないんだ)
自分が将来背負うもの。それは決して軽いものじゃない。騎士は希望すれば辞職できるけれども、王妃は辞めたいから辞める……なんて気楽な立場ではないんだから。
馬上槍試合のトーナメントでの目標は、もちろん優勝だ。こんな時でも負けたくない。
コツン、と額に軽くなにかぶつかりそちらを見ると、フランクスが水筒をわたしに押し付けていた。
「あんま気負うなよ?今からそんなんじゃ、勝てるものも勝てなくなるぞ」