抱きしめられた瞬間、彼のみぞおちにひじ打ちを叩き込んでいた。反射的に自分でもなかなかの打撃だったと思う。
「ぐっ…」
微かにうめき声を上げたものの、さすがに鍛え上げたアスター王子。急所なのに受けたダメージはごくわずかなようだ。
……後ろにいるからわたしからは顔が見えないけど、彼は今、嬉しそうな顔をしてる、絶対。
「いいひじ打ちだ。以前より成長が見られるな」
「……変態発言はやめていただけますか?あなたの趣味はともかく、不意打ちでこういったことをするのは訓練のためですよね?」
以前から度々あるアスター王子の変態っぷり。最近ますます磨きが掛かってきてる。
「殴られて喜ぶ趣味は以前からおありでしたからね。縁談相手にバレて逃げられてきたんじゃないですか?」
「違うわ!ちゃんと自分で断ってきた」
「ハイハイ」
「……なんだ、その気のない返事は?」
「今さらですからねーあなたの変態っぷりは」
「オレは変態じゃない!」
ぎゃあぎゃあいつも通りのアホなやり取りのあと、コホンと彼は咳ばらいをして仕切り直す。
「……ともかく、だ。きちんと決めただろう?婚約者としてのふれあいを増やす…と。まだ慣れないからゆっくりと進めたい……そうだったな?」



