「無礼者!いい加減に手を離しなさい!!」
侍女のひとりがトムソンとローズ様の間に体を滑り込ませ、彼を睨みつけてきた。
「これは失礼を…ですが、アスター殿下の婚約者であるミリュエール嬢に危害を及ぼさない保証が無ければ、離すわけにはいきませんね」
「なっ…!わ、わたくしが暴力を振るうとでも?」
「失礼ながら、先ほどはミリュエール嬢を打とうとしていたように見えますが?」
すごいな、と感心してしまった。候爵令嬢を相手にしているのに、トムソンはまったく怯むことなく言い返してる。さすがに従騎士として先輩なだけあるよね。
(わたしも、トムソンを見習わなきゃ…!)
でも、それより前にこれはわたし自身のトラブル。他力本願なんてしたくないから、自分で解決しないとね。
「トムソン、ありがとう。もういいよ……ローズ様、お怒りになられるのももっともですが、ならばわたしで鬱憤を晴らすよりも、もっとすべきことがあるのではありませんか?」
わたしはローズ様をまっすぐに見据えると、彼女に語りかけた。
「他者を貶めるよりも、ご自身を磨き高めることに時間をお使いください。アスター殿下にもきちんとお気持ちを伝えるのです。真摯に向き合い真心を込めれば、きちんと殿下も向きあってくださいます。わたしは…殿下が本当に愛する方がいらっしゃるならば、婚約破棄されても構いませんから」



