「はっ!」

夜、9時。すべての仕事を終えたあと、わたしは訓練場でランスを構えていた。

(このタイミングで…ランスの穂先を突き出す!)

頭の中で馬上槍試合の経過を想像しながら、実際のランスの扱いを何度も何度も反復する。

実際にアクアに騎乗しながらの方が感覚が掴めるけど、最近はよく付き合ってくれているから、今日は休ませるために馬房へ戻した。

(うん、やっぱりこのタイミングだ…!)

苦手だったランスの扱いも、ここ1か月でずいぶんマシになってきた気がする。


「よ、ミリィ。まだやってたのか」
「フランクスも、今から?」

従騎士仲間のフランクスが訓練着の軽装で現れた。
今は、夜の10時近く。普通なら眠らなきゃならない時間帯だけど。

「そりゃあな。初めての馬上槍試合まであと半月切ったんだ。どうせなら勝ち抜きたいもんな」
「それは、ぼくも一緒だよ!エストアール家の人間として、恥ずかしい試合はしたくないから」

フランクスの言うとおり、もう6月に入った。
6月20日にあるアルベルト王子殿下とソフィア公爵令嬢の御結婚の儀まで、あと半月もない。
追い込みで馬上槍試合の訓練にも熱が入る。

さすがにお妃教育の時間は減らしてもらい、従騎士としての訓練を優先してる。
午前にある講義の時間でも、少しずつ緊張が高まりつつある。皆、やはり出場するならばひとつでも勝ち抜きたい。
トーナメントの結果は騎士に叙任されることに直接関係はないにしても、やはり騎士としての栄誉に関わること。皆、真剣な面持ちで練習に取り組んでいた。