顔が熱い。

絶対、赤くなっている自信がある。

心臓もコントロールできないくらいドキドキと速い鼓動を刻んでるし、熱のせいか少しだけ肌が汗ばんできた。

でも、負けない!と自分自身を鼓舞する。微かに身体が震えるのは、きっと武者震いだ。そう自分に念じてアスター王子の淡い色の瞳を見つめる。


ふ、とアスター王子が微かに笑う気配を感じた。


「無理強いはしない、と言ったがな……」

困ったような、嬉しそうな。そんな顔をする彼も珍しい。

「そんな可愛すぎる反応をされては、抑える自信が無くなる」
「……か、かわいい?」

自分に対する耳慣れない言葉を聞いて、少しだけ頭がフリーズしてしまう。
お母様やお父様はいつもかわいいとおっしゃってくださったけど、それは親の贔屓目で……赤の他人から、そんな評価をされたことはない。

騎士を目指すならば女としての評価は不要、と徹底してそういった要素は排除したつもりだった。

でも、このひとは……アスター王子は、こんなわたしがかわいいとおっしゃる。意味がわからない。

「やっぱり、アスター王子の目と頭が心配になりますが」
「すべて正常だが、そうだな」

もう一度、微かに笑ったアスター王子の綺麗な瞳が近づいてくる。え?と思う間もなく、吐息を感じた口もとに…唇に、一瞬だけ柔らかさを感じた。

「ミリィ、おまえにだけはオレのすべてがおかしくなる」

そう告げてきたアスター王子の顔が、もう一度近づく。

真っ白な頭には、なにが起きたか理解不可能で。

それが、ファーストキスというものだと初めて知ったのは、翌朝のことだった。