反射的に身体を離そうとして、すぐに思い留まる。
(これくらいで逃げるな!わたしはアスター王子の婚約者なんだ。彼の思うとおりにさせよう、と自分で決めたんじゃないか)
逃げたくなる気持ちを抑え込み、自分自身を鼓舞する。まったく未知の領域に足を踏み入れる怖さは、誰にもあるはずだ。
(そう、生涯のパートナーがいる女性ならば誰もが経験してるはず……騎士を目指すならは、怯むな、恐れるな!)
負けまい、と目に力を入れてアスター王子を見ると、彼は小さく笑う。
「そんなに睨みつけるな。別にまだ最後まではしない」
「最後まで…ですか?」
また、わたしの知らない言葉が出てきてる。
「言ったはずだ。少しずつスキンシップを増やそう…と。無理強いはしないが、そろそろオレも色々と…な」
そうおっしゃるアスター王子は笑顔だったのだけれども…なんだか、それがいつもより悪魔のように見えたのは気のせいだったのだと思いたい。
「1年、耐えてきたのはおまえだけではなかった…ということだ」
耳もとで、そう囁いたアスター王子の声が、ほんの少しだけかすれて熱い。耳に感じた吐息がくすぐったくて、身体がぴくりと揺れた。



