数度深呼吸をしてから、自分自身が落ち着いたことを確かめる。
(大丈夫……ただ、伝えるだけだ)
少しだけ緊張をして、鼓動も速い。でも、はっきりしたのだからきちんと伝えるべきだと思う。
「好きです」
「……」
なぜか、アスター王子がギシッと固まった。完全にフリーズしてる。
きっと、衝撃を受けて頭が処理をしきれてないんだろう。
それでも構わず、わたしは続けることにした。
「どうやら、わたしはあなたを好きなようです。エストアール家の人間は代々初恋が遅いのが伝統ですが、わたしも恥ずかしながらこの年まで恋愛沙汰にはまったく縁がなく来ました。
去年からずっとあなたと過ごすうちに、おそらく惹かれていたのだと思います」
一度言葉を切ってアスター王子の様子を見ていると、どうやら事態を理解したようでノロノロと動き出した。
「……そうか」
彼は、ボソッとぶっきらぼうにそれだけ言ったのだけど。ちらっと見えた耳が、今までにないほどに真っ赤っか。照れてこちらを向けないんだ、ってのがよく分かる。
(アスター王子…かわいいな…)
思わずクスッと口もとに笑みが浮かんでしまう。
ここで恋愛に慣れた大人の男性ならば、歯の浮くような台詞のひとつやふたつ返して、ストレートに愛を表現するんだろう。
でも、ぶきっちょなアスター王子にそれは期待できないし、むしろわたしはそちらの方がずっといい。
いつも並べられる100の浮ついた言葉より、ひとつの本物の言葉を貰えた方がいいから。



