【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


なんだか今夜はアスター王子の言葉が少なめだなあ、とのんびりサンドイッチをかじっていると、彼がカップを差し出してきた。

湯気が出ているそれからは、リンゴに似たような甘く爽やかな芳香が漂う。

「ありがとうございます……これ、カモミールティーですね。それもジャーマンカモミールの」
「たまたま見かけたからな」

ボソッと呟いたアスター王子だけど、照れ隠しのぶっきらぼうな態度の中に優しさを感じる。
背中を向けられていても、ほんの少しだけ耳が赤い。

カモミールティーは様々な薬効がある。風邪の症状緩和にも有効だ。

わたしの発熱の原因はそうではないけれども、わたしのことを考えてアスター王子はわざわざジャーマンカモミールを探してきてくれた。多忙な合間を縫って。それが、涙が出そうなくらい嬉しい。

カモミールティーを口にすると、独特のクセがある甘みに似た香りに味わい。体中に染みとおるのは、暖かさ。お茶だけでなく、アスター王子の優しさと思いやり。じんわりと心身が芯から温まっていく。

「アスター王子」
「なんだ?」

これは、今言うべきかわからない。まだ自分自身にも自信が持てないのに。
今までこういった経験が無いから、どんなシチュエーションが最適か…なんて。
でも、わたしが伝えたかった。
この熱は、気のせいなんかじゃないから。