「あ、このチーズ…エメンタールチーズですね」
スカイレースの特産である、ハードタイプのチーズ。デコボコの穴が空いていて、ナッツのような香ばしさが美味しい。わたしが一番好きなチーズだ。
これも、去年湖でのピクニックでアスター王子が用意してくださった思い出の食べ物。
人によっては、たかがサンドイッチとチーズかもしれないけれども…。
ゼイレームではなかなか手に入らない食材を、わざわざわたしのために用意してくださった。その気持ちが嬉しくて、あの時から彼をより信頼しようと思うようになったんだ。
ふ、とその時のことを思い出す。
目の前アスター王子は自分のパンを手に取ることなく、わたしを心配そうに見つめてる。
そうだ。
彼は、いつも。いつだって、自分自身よりわたしの心配をしてくれるんだ。
わたしを見守ってくれる優しい眼差しに、いつの間にかこんなにも安心感を感じるようになったんだ。
(そうだ……きっと、あの湖で……わたしは……アスター王子を……)
好き、だとかは……まだ幼いわたしにはわからない。
年齢よりもわたしは精神的に幼い。初恋も今までなかったし、ときめきとか熱烈な恋とか…いつも他人事で、自分に当てはめたこともない。
エストアール家を継ぐならば、騎士か騎士見習いを婿に取り、政略結婚が当たり前と思っていたけれど……。
ぎゅっ、と服の胸元を掴むと、アスター王子が大げさなほどに騒いだ。
「ミリィ、苦しいのか!?胸か、呼吸か?今、医者を……」
慌てた彼の腕を掴み、首を横に振った。
「大丈夫です。呼吸も胸も苦しくありませんから」



