【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


「あ、このチーズ…エメンタールチーズですね」

スカイレースの特産である、ハードタイプのチーズ。デコボコの穴が空いていて、ナッツのような香ばしさが美味しい。わたしが一番好きなチーズだ。

これも、去年湖でのピクニックでアスター王子が用意してくださった思い出の食べ物。
人によっては、たかがサンドイッチとチーズかもしれないけれども…。

ゼイレームではなかなか手に入らない食材を、わざわざわたしのために用意してくださった。その気持ちが嬉しくて、あの時から彼をより信頼しようと思うようになったんだ。

ふ、とその時のことを思い出す。

目の前アスター王子は自分のパンを手に取ることなく、わたしを心配そうに見つめてる。

そうだ。
彼は、いつも。いつだって、自分自身よりわたしの心配をしてくれるんだ。

わたしを見守ってくれる優しい眼差しに、いつの間にかこんなにも安心感を感じるようになったんだ。


(そうだ……きっと、あの湖で……わたしは……アスター王子を……)

好き、だとかは……まだ幼いわたしにはわからない。
年齢よりもわたしは精神的に幼い。初恋も今までなかったし、ときめきとか熱烈な恋とか…いつも他人事で、自分に当てはめたこともない。

エストアール家を継ぐならば、騎士か騎士見習いを婿に取り、政略結婚が当たり前と思っていたけれど……。

ぎゅっ、と服の胸元を掴むと、アスター王子が大げさなほどに騒いだ。

「ミリィ、苦しいのか!?胸か、呼吸か?今、医者を……」

慌てた彼の腕を掴み、首を横に振った。

「大丈夫です。呼吸も胸も苦しくありませんから」