【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


「でも…」
「でも、もない。いいか?これは上司として、それから王子としての命令だ」

アスター王子にしては珍しく、かなり強引だった。眉を寄せて怒っているふうにも見えるけれども、わたしを心配しすぎて…という事はわかる。

「……すみません、こんな大事な時に体調を崩してしまうなんて。自分が不甲斐なくてたまりません」

わたしが申し訳なくて謝罪の言葉を口にした途端、アスター王子は唐突にわたしの頭に手を伸ばす。指先が額に触れて、ドキッと胸が高鳴ってしまった。

前髪がいつの間にかかいた汗で張り付いていたようで、彼はそれを払ってくれる。

「……いや、オレにも責任がある。というか、オレにしかない。おまえの疲れを見抜けなかったんだ。ただでさえハードな騎士見習いの業務に、妃教育まで加わったんだ…こんなハードスケジュール、男ですら音を上げる。こうなる前にスケジュールを調整すべきだったのにな」

アスター王子が心底悔いるようにおっしゃるものだから、なんだか少し可笑しくなってついつい口元が綻んでしまう。それを見た彼が、ムッとした顔をするのは当たり前だ。

「ミリィ、なにか可笑しかったか?」
「はい。相変わらずアスター王子は過保護ですよね。わたしは確かにまだ15歳の少女ではありますが、間もなく成人する騎士見習いです。体調管理の責任は自分にありますし、もしも疲労を感じたら適度な休息を取る判断もします。今回は自分の判断ミスですから、あなたが責任を感じる必要はありません」