《……ミリュエールよ、そなたが謝罪する必要はない。人間というものは、おのが種のみの安全を計る臆病な生き物ゆえ、過剰に危険性を排除するものと理解しておる》
人間を臆病と評するセシリアの言葉は、完全に否定できない。
予測できる危険があれば予め排除することは、人間にとって当たり前だ。特別な一部を除いて大抵の人間は弱い。弱いから知恵を絞り協力して社会を作り上げる。自分たちが生きるために。
その中で、ゼイレームという国はドラゴンは危険な生物という意識が作り上げられてしまった。
わたしのお父様でさえ、小さなドラゴンの討伐経験がある。もっとも、その時はそのドラゴン自身が病んで身体が腐り、救うには殺すしかなかったみたいだけど。
「人の弱さゆえ…です。知らない、未知の存在ゆえに、過度に恐れを抱いてしまう。ゼイレームの大抵の人間はドラゴンを見たことすらありません。ゆえに、伝え聞いた伝説や物語の中のイメージのみで判断してしまう…お恥ずかしい話ですが…ノプットより騎竜と竜騎士が来られたとして、身の安全は保証しかねるのが正直なところです」
《ふむ……》
わたしの言葉を聴いたセシリアがなぜか目を細めると、高祖母様をチラッと見る。彼女はニャッと笑って葉巻きの煙を吐いた。
「そんならさ、アンタが変えればいいんじゃね…?って思ったろ?セシリアはさ」
鼻からも盛大な煙を出した高祖母様は楽しげにおっしゃいますが…?
《そうだな。そなたはいずれゼイレームの王妃になると聴いた。なれば、そなたが変えればよい。人々の意識をな》



