ぶわり、と風が吹いた。
大きな羽音が聴こえてきて、一気に中庭が暗くなる。
空を仰げば、紫色の鱗を持ったドラゴンがこちらへ向けて降下してくる。ブラックドラゴンの襲撃を思い出し、思わず構えて剣の柄に手を掛けてしまうけど。スッとアスター王子の手に止められた。
「待て、ミリィ。あのドラゴンに害意は感じられない……どころか、あれは古代竜(エニシェントドラゴン)だ」
「古代竜…!?」
古代竜というのは初めて聞く。ブラックドラゴンの母ドラゴンが千年龍だったみたいだけど。
古代竜はゆっくりゆっくり降下してくるけど、あまりの大きさに驚いた。ブラックドラゴンよりふた回り以上大きい。中庭のほとんどを埋め尽くす巨体だ。
そして、その背中にひとりの女性が乗っていたのだけど。
どう見ても30そこそこにしか見えない若い女性で、赤い髪をゆるく結い上げ、切れ長の青い瞳が美しい…けど。なんだか誰かに似てる。
そして、身体にフィットしたノースリーブノーカラーの赤い超ミニスカートワンピース。胸もとはめちゃくちゃ開いてる。これでもか、と見事な肢体を惜しげもなく晒してるけど…。
「あれ?お越しになるのは確か、わたしの義理の高祖母様のはずですが…」
「そのはずだが……」
アスター王子と2人で困惑していると、謎の美女が軽く片手を挙げた。
「よぉ、ソニア!元気してっかー?」
謎の美女は誰かさんそっくりの喋り方で明るく挨拶すると、ソニア妃がとんでもない発言をした。
「あらあら〜お久しぶりですわ、アリスティアお祖母様〜」
「……は?」
なんだか、信じられない言葉が聴こえた気がする。



