「人を、斬る覚悟……」
わたしがオウム返しで呟くと、フランクスは「そうだ」と頷いた。
「これを振るう以上、誰かを傷つける。そして時には命を奪う覚悟。同時に、自分も斬られ命を落とすかもしれない覚悟」
フランクスの言葉はシンプルではあるけれども、武器を手にするならば必ずせねばならないことだ。
騎士になることとは、剣を手にするだけじゃない。人の、自分の命を、奪い奪われる立場になること。
そして、剣を握るフランクスの手が微かに震えているのは気のせいじゃない。
「騎士を目指して3つの年から小姓として頑張って、去年念願の従騎士になれた。それはもちろん嬉しいし、やりがいがある。だけど、いざ真剣を持つと…その重みに正直怖くなるんだ。これで誰かを殺すことになると思うとさ…もちろん、いざ戦いになれぱ悠長なことは言っていられないのはわかるんだけど」
恐れと、怯えと、恐怖。葛藤。
フランクスのなかで、様々な感情が渦巻いてる。
「ミリィは何度かアスター殿下と対人戦を経験したんだろ?躊躇いや怖さはなかったのか?」
フランクスの問いかけには、どこかすがるような響きがあった。わたしの数少ない経験で参考になるかわからないけど、正直に答えることにした。
「もちろん、怖さはあったよ。だけど、この場で奴らを止めないとより被害が広がると思ったら、躊躇ってなんていられないよ。ユニコーンの密猟の時も、侯爵邸の時も、ただひたすら無我夢中だったけど。覚悟というか、腹をくくったかな」



