「トムソン、婚約おめでとう」
「ああ」
従騎士として受ける講義の時間。久しぶりに会ったトムソンにお祝いの言葉を掛けると、やっぱり反応が微妙だった。
そりゃあそうだよね。相思相愛で互いに望んでだとか、せめて普通に貴族同士の縁談で婚約したならともかく…トムソンはやむにやまれず婚約したんだから。
父親のバーベインが侯爵で無くなったため、当然ローズ嬢も貴族令嬢ではなくなった。だから、将来男爵となるトムソンとの婚約を認めるか…の討議は紛議した。でも、結局。アスター王子の根回しと国王陛下の寛大さにより、最終的に認められた。
帰る家がなくなったローズ嬢は、ガーランド家が持つ別邸のひとつに花嫁修業の名目で滞在している。
どうやら、彼女は自分から侍女たちに頼んで家政一般を学び始めているようだ。
侯爵令嬢であれば、自ら手を汚すような家政は一切やらないはず。でも、彼女は掃除も洗濯も、料理や繕い物など。今までやらなかったことを進んでこなしてるらしい。
「……ローズ嬢は頑張ってるみたいだね」
わたしが控えめに彼女の話を出すと、トムソンの口元がフッと緩んだ。
「ああ、生粋のお嬢様ではあるけど……不器用ながら身につけようとしてる。この前は洗濯板でこすりすぎて、シャツに穴をあけてたけどな」
そんなふうに話すトムソンは、ローズ嬢に対してどんな想いがあるかはわからない。でも、少しは楽しそうに見えるから…ちょっとは好意を抱いてるのかもしれないな。なんて勝手な邪推をしていた。



