「よっ、はっ…」
午後一番の鍛錬は垂直の崖を自力で登る。
道具を一切使わずに、命綱なし。
指の力と握力と足の力だけが頼り。
高さ50メートルの崖を3往復登り降りする。
「ん…ぐぐっ…」
突き出した岩を掴んで自分の体を引き上げるけど、悔しいことにトムソンやフランクスほど早く登れない。
ただ、フランクスは高所恐怖症で青い顔をしながらヒイヒイ登ってる。それでもわたしより早いから、よけい悔しい。
この1年鍛錬も筋肉強化も人並み以上に頑張ってきたつもりだったけど、やっぱり大人になる男の子の筋肉量には敵わない。どうやっても、性差が埋まらない。
(でも…わたしには体の軽さがある!それを活かすしかない)
以前、フランクスに言われたスピードと軽さ。重さはどうしても男性に敵わないなら、それに活路を見出す。
爪と指が痛くなって腕が痺れて震えてきた。うまく力が入らない。汗で手のひらが滑る。呼吸も荒くなって全身から汗がしたたり落ちる。
もう3往復目。つらくて苦しい。筋肉が悲鳴を上げそうだ…でも。
「負けない…!ぼくは絶対騎士になるんだから……」
野戦があった時や災害時や非常時。この程度を涼しい顔でこなせなければ、役に立たない。いざという時は怪我人を背負うこともあるのだから。



