「……そうか、トムソンは覚悟を決めたみたいだな」
ピッツァさんの話を聴いたアスター王子もわたしと同じ考えに至ったらしく、感心した様子で呟いた。
「はい。トムソンにはまだ婚約者はいませんでしたからね…それでも彼の決断には敬意を表したいです」
貴族というものは狭い村社会だ。腹を探り合い、マウントを取るのは当たり前。足の引っ張り合いなんて日常茶飯事。すねに傷があれば、格好の攻撃材料となる。
当然、犯罪者の娘となれば噂や醜聞のネタにされるだろう。
わたしが一年前にレスター王子に婚約破棄された時も、社交界からの追放を言い渡されたから貴族として終わったも同然だった。
(まあ、当たり前だけどあれはレスター王子が勝手に言い出しただけで無効だったけどね)
「おそらく親兄弟からも反対を受けるし、父上や貴族院も渋るだろうが、オレが後押ししよう。おそらくマリアも…アルベルト兄上も、母上も、理由を話せばお力添えいただけるはずだ」
「父上とソフィア公爵令嬢と、ユリネ王女殿下にもお話しを通しておきましょう」
将来の王太子たるアスター王子自身も推してくださるし、協力者にも話を通してくださるという。
ならば、とわたしも有力な協力者の名前を挙げた。
「ああ、この婚約は成功させるぞ」
アスター王子の決意を聴いたわたしは、ハッとあることに気づいた。
(そうだ……この件を成功させたら……貴族院にアスター王子の存在感が増すことになる。ひいては王太子として存在感が増す、ということなんだ)



