「ミリィ、その短刀を魔術師へ投げろ。ブラックドラゴンの魔力が宿るそれを媒介にして魔術を使う」
「はい!」
アスター王子がそう指示してきたから、頷いたわたしはすぐさま短刀を振りかぶる。
「はぁッ!」
(いけ、ブラックドラゴン!あなたを呪ったかもしれない魔術師だ。仇を打つんだ!!)
わたしの想いを込めたブラックドラゴンの短刀は、それに応えるように炎を纏いまっすぐ魔術師へ向かう。
おそらく魔術で妨害されているだろうけど、すべてを切り裂いて飛んでいった。
そして、ブラックドラゴンの短刀は魔術師の身体を包む黒いローブの足元に突き刺さった。
「よし!」
アスター王子の足元に丸い魔法陣が出現し、頭上にも展開される。ブワッと風が吹いて光の粒が舞い上がり、魔術師の周囲にも円陣が複数展開。次々と壊されていくけど、彼は諦めずに魔術を発動し続ける。
魔術と魔術のせめぎ合い。
わたしにできることはない。
ただアスター王子の応援をするために、彼の
手を両手で握りしめて励ますことしかできなかった。
(アスター王子、頑張ってください!)
ピリピリと肌を突き刺すすさまじいぶつかり合い。
アスター王子がわたしの手を握り返す。まるで、頼ってくださっているようで嬉しかった。
やがて、浮いた魔術師が少しずつ 少しずつ高度を下げていく。そして……その足がふたたび床に着いた瞬間、アスター王子はマリア王女から託された笛を吹いた。
音無き音が広がった次の瞬間、崩れ落ちた壁から軍服を着た人々が出現。魔術師に群がったかと思うと、そのまま力尽きた魔術師を捕縛した。



