(なんだ!?)
そのフロアに足を踏み入れた瞬間、ぞわっと背中に悪寒を感じ肌が総毛立つ。
こんな感覚は初めてだった。
頭のなかで警報が最大限に鳴り響き、かつてない警戒心が心身を引き締める。
「ミリィ、オレから離れるな」
「はい」
アスター王子の眼差しもまとう空気も今までと比較にならなほど鋭く、いつでも構えられる態勢でゆっくりと進み問題の部屋へ近づいていく。
「いいか?メダリオンにはオレがかけられる最大限の防御魔術を二重に掛けている。だが、相手はおそらくオレ以上の魔力がある呪術師だ。ミリィはなるべく近づかず、周囲にいるだろう護衛を相手にしろ」
「はい」
アスター王子に言われるまでもなく、ビリビリと肌で感じる。本能的に近づいてはいけない相手だ、と。
本当ならば足がすくみ震えてしまうような闇の威圧感。このまま逃げたい、と思うのは決して弱い人じゃない。
でも、とわたしは一度目をつぶり息を吐いて、再び開いた目でアスター王子をしっかり見据えた。
「……ですが、ぼくはあなたが危なくなったら必ずお助けいたします。相手がどんな難敵だろうが、関係ありません」
そして、足のストッキングに仕込んできたブラックドラゴンの角でできた短刀を手に取りにっこり笑って見せた。
「あなたが戦うならば、ぼくも戦います!」



