「アスター王子、今はそれどころじゃないでしょう!ほら、曲が終わったのでローズ嬢とトムソンが動きましたよ」
わたしが視線で示した先にいたトムソンは、ローズ嬢とともに自然な様子でダンスフロアを抜ける。そして、顔出ししたマリア王女とフランクスカップルに無事合流できたようだった。
あとは、皆の演技力に掛かっている。
ただ、マリア王女は付き添いで侍女や侍従もいるし、婚約者の従騎士フランクスや従騎士仲間のトムソンもいる。
ましてや、王妃様と国王陛下の娘であるマリア王女に手出ししようものならば、彼女の言ではないけれども、下手したら物理的にクビが飛ぶかもしれない。
そんな強者がいるかはわからないけどね。
二組が合流し打ち解けた様子まで見られた後、わたしたちもこっそりとダンスフロアを抜ける。
その際に見えたローズ嬢のちいさな笑顔に、ほっとできた。
(よかった……ローズ嬢、かなり緊張が解れてリラックスしてたな)
「アスター王子、急ぎましょう。なるべく早く術者を排除せねばいけないんでしたね?」
「ああ。マリアが言っていた通りに、このバーベイン侯爵邸の敷地全体に呪いの系統の魔術が張られている。意思が弱い者はたちまち洗脳されてしまうほどのな。オレも解呪を試みたが、構成が複雑ですぐには無理だった。だから、術者を見つけ解呪させた方が早い」
わたしとアスター王子はひとまず魔術師のいるだろうフロアへ向かう。バーベイン侯爵の悪事の摘発は、ピッツァさんとレトムへ任せておいた。



