(へえ…トムソンもなかなかダンスが上手いじゃん)

緊張していたローズ嬢も踊りやすそうだし、こわばっていた顔も笑みを浮かべる余裕が出てきたみたいだ。

何を話したかわからないけど、貴族の子弟としてトムソンはまあまあいい男だと思う。マナーとかしっかりしてるし、話術や社交術もにわか貴族のフランクスや令嬢らしからぬわたしより遥かに優れてる。
だから、生粋の貴族令嬢のローズ嬢が彼に助けを求めたのは正解かもしれない。

(今踊っている曲が終われば、2人はダンスフロアをぬけるはず。マリア王女達と無事に合流できればいいけれど)

「ミリィ、全然集中してないな」

やはりダンス中でもわかってしまうのか、アスター王子に苦笑いされてしまいましたよ。

「すみません。どうしてもトムソン達が気になってしまいまして」
「まぁ、仕方ないな。それがおまえのいいところだが……」

なぜか、アスター王子は顔をわたしの耳元に近づけてこう囁いた。

「今は、他の男よりオレの事だけ考えていろ」

なんだろう。
耳元で囁かれただけなのに、彼の微かな吐息を熱く感じて。より彼の存在を強く意識してしまう。
背中に置かれた大きな手や、組み合った腕、密着する身体。以前と同じなのに、比較にならないくらいドキドキしてきた。

でも…。

(平常心、平常心!動揺するな…!冷静さを欠いては敵につけ込まれる!!)

自分のなかで湧き上がる熱を必死に諌めた。