「は……はい!」
トムソンは緊張の面持ちで、アスター王子から指輪を受け取る。アスター王子はすでに事前にピッツァさんたちと計画を練っていたらしく、具体的かつ事細かな行動を彼に指示した。
「この屋敷には何重もの警備がなされている。ただの社交パーティにしては不自然なほどだ。だが、所詮人間の考えること。警備が薄くなる時間や場所はある」
アスター王子の描いた見取り図では、バーベイン侯爵邸はかなり広大な敷地と立派な建物に違わぬ部屋数。けれども、確かにいくら人数が居ても隅々までは監視しきれない。
アスター王子はパーティの開催されている大広間から、スッと指である経路を示した。
「トムソンはこのルートを通り、ローズ侯爵令嬢と正面玄関から出ろ」
「えっ!正面から…ですか!?」
トムソンが驚くのも無理はない。普通ならば警備が手薄なルートを選び、人目をかいくぐって抜け出すと考えるだろうけど。
「いや、むしろ目立つほど人目に付くといい。堂々と屋敷から出ろ。ローズ侯爵令嬢自らの意思でそうした、と周囲に思わせるんだ。侯爵から誘拐されただの難癖をつけられないためにもな。そこでもう一つ保険を掛ける。マリア」
アスター王子が異母妹を呼ぶと、彼女は嬉々として応じた。
「わかっておるわ。わらわとフランクスが2人に合流し、親しく和やかな雰囲気でともに出ればいいのじゃろ?確かに、わらわは国王と王妃の娘じゃ。下手に手出ししたら首が飛ぶ。最強の保険じゃのう」



