「なんじゃ、アスター兄上。何やら楽しそうな話をしておるではないか?」
いつの間にやらマリア王女が笑顔ですぐ近くにいたけど、まったく気づけなかった。わたし自身、警戒はしていたはずだけど。
「……マリア、これからの事は遊びでない。危険であるし、下手すれば貴族取り潰しにも発展するかもしれないんだ。気楽な気持ちで関わるな」
さすがにアスター王子も、異母妹が口をはさむのを良しとしなかった。幼い彼女を危険に晒すわけにはいかないし、第一彼女はいくら聡くても軍人や騎士ではない。わたしも、マリア王女が関わるのは賛成できなかった。
「マリア王女、わたしもあなたが関わるのは賛成しかねます。大切な御身なのですから」
「なんじゃ、つまらぬ…まあ、確かにわらわが関わったとしても、大した戦力にはならぬのでのう。致し方ない」
やっぱり、マリア王女は並みの9歳少女じゃない。単にわがままなだけでなく、自分の立ち位置を素早く理解して身を引くこともできる。あの残念な同母兄王子も見習ってほしいくらいだ。
そして、マリア王女は意外な指摘をしてきた。
「じゃが、アスター兄上ならば気づいておろう?この屋敷全体に不可思議な魔術がかけられておることを」
さすが、ソニア妃のもとに通うだけある。もともと魔力があったマリア王女ならではの言葉だった。
「魔術ですか?どんな種類の…」
「あまり良くない性質じゃな。……闇の術……いわゆる呪いの系統じゃ。今はなんともなくとも、後からじわじわ精神が蝕まれる感じかの。しかも、洗脳する意図も感じる…かなり悪質じゃな」



