あの事件が起きたもともとのきっかけは、ローズ嬢がわたしにアスター王子の婚約者に相応しくない、と難癖をつけてきたからだった。
それをトムソンが助けてくたのだけど…。呼びもしないレスター王子が登場し、たまたま通りがかったアスター王子まで乱入してしっちゃかめっちゃかになったんだ。
あのとき弟王子にからかわれたレスター王子が激高し、宮中で禁じ手である抜刀をやらかしたのだけど。
「……トムソン、あの時はローズ嬢を護ってあげていたよね?」
「まあな。か弱い女性を護るのは騎士の務めだろ?相手が誰であれ、同じ行動をしたさ」
うん、模範解答。騎士の鏡だね。
「……うーん……その時のトムソンが頼もしく感じたんじゃない?ローズ嬢は箱入りのお嬢様だから、男性の知り合いは多くないと思うけど。貴族の令息は大抵勉強ばかりだからほっそりしてるし」
箱入り息子になればなるほど、武術をたしなんでも乗馬や護身術程度。大貴族ならば護衛など掃いて捨てるほどつくから自ら体を鍛える人は少ないし、武家でない限り親も危険なことはさせない。
ローズ嬢ならば高位貴族ばかりに接してきたのだろう。だから、トムソンの態度や逞しさは新鮮だったのかもしれない。
でも、わたしが一番に気になったのはアスター王子とともにローズ嬢とすれ違い様に聴こえた言葉だった。
“なぜ、あなただけそんなに護られるの”ーーと、確かに聴こえた。



