「……なるほど、確かに妙だな。まず、この封蝋はバーベイン侯爵のものではない」
トムソンから預かった招待状を眺めたアスター王子は、わたし達では気づかなかった点を指摘した。
「え、違うんですか?」
「ああ、紋章がわずかにだが違う。普段から多数の紋章を見慣れていなければ、紋章官でもない限り見落とす程度だがな」
アスター王子に言われて招待状の紋章を注意深く見れば、確かにバーベインの紋章である獅子に絡む蔦の足元に小さく薔薇が咲いている。
貴族ならば個人ごとに独自の紋章を持つ。大抵はその家の紋章をアレンジしたもので、王族ももちろん個人の紋章はあるし、一応男爵令嬢のわたしにも紋章は作られている。
さすが第3王子であり、近衛騎士を長年務めるアスター王子。わたしではまったく差異に気付けなかった。
「……薔薇、ということはローズ嬢でしょうか?」
「まず間違いなくそうだろうな。会場に入る際に招待状をチェックする者も、ローズ嬢のものだから通したんだろう」
わかりやすいアイコンを紋章に持つローズ嬢。彼女はなんのつもりでトムソンに招待状を送ったのだろう?
この妙な文章から察すると、トムソンにエスコートを期待するようにも取れるけれども。
「トムソン、ローズ嬢と親しいの?」
「バカ言え。ろくに話した事ない相手だぞ?唯一話したのは、王宮であのバカ王子が抜刀騒ぎを起こした時くらいだ」
「……ああ、アレね」
トムソンにローズ嬢との関わりを確認すると、案の定な答えが返ってきた。1ヶ月以上前にあったレスター王子が宮中で抜刀した事件。あれであの王子の愚かさがさらに露呈されたんだった。



