あまり固まっていると目立つから、一旦それぞれ解散した。もちろん、マリア王女からは目を離さない程よい距離を保つ。

アスター王子を見つけた貴族達が、引きも切らず挨拶にやってくる。彼の立太子の公表はまだなされてはいないものの、国王陛下が根回ししている最中だから知る人は知ってる。だから、今のうちにとちゃっかり顔を覚えてもらおうとしているのだろうね。
なかにはあからさまに反対派で今までわたしの存在などスルーしてきた貴族も、掌を返してわたしにまでゴマすりしてきたのは笑えるけど。

そうして貴族を観察して楽しんでいるうちに、意外な姿の人を見かけた。

(あれ…?トムソン!?)

いつものくせが強いくすんだブロンドはきちんと整えられて、貴族の令息らしいドレスシャツと黒を基調にした礼服を身に着けている。オレンジがかった瞳は誰かを探すように落ち着きなく動いてた。

(パートナーとはぐれたのかな?)

チラッとアスター王子を見ると、以前から親しげにしている貴族の当主と話し込んでいる。
マリア王女はダンスフロアでフランクスと踊っているし、さすがにこの最中に手出しするやつはいないだろう。

「お話中失礼します。アスター王子、従騎士仲間がいたので少し離れますね」
「ああ、あまり遠くにいくなよ」
「はい。少しの間失礼します」

一応、アスター王子に断りを入れてからトムソンに声をかけた。

「トムソン!今日は来たんだね」
「ミリュエール」
「誰か探してるの?パートナーとはぐれたとか?」

気軽に声をかけたのだけど、トムソンは妙な事を口にした。

「……いや、パートナーは誰かわからないんだ」