(……もしかして、ローズ嬢の様子がおかしかったのはそのせい?)
ピッツァさんが調べに来たとなると、おそらくバーベイン侯爵への疑惑は本物なのだろう。フェニックス騎士団が本腰を入れるならば、国王陛下へ話が行くのも時間の問題…いや、とうにお耳にされているかもしれない。
「アスター兄上とミリュエールではないか!」
「はい?」
聞き覚えのある幼い声が聴こえて振り向けば、誰も居ない…のではなく、少し視線を下げれば派手な紫色のドレスを着たマリア王女が仁王立ちしてらした。
なぜか顔には目元だけを隠す赤い仮面を着用し、自慢の赤茶色のブロンドをゆったりと結い上げ、服に合わせた花がモチーフの金の髪飾りで飾っている。
そして、パートナーは彼女が婚約者にと望んでいるわたしの従騎士仲間のフランクスだった。
彼はいつもはボサボサの茶色の髪をきちんとなでつけ、マリア王女のドレスに合わせたのか紫色のスーツを着用してる。体型に合わせたストレートなデザインは、身体をよく鍛えた少年にはぴったりでよく似合っていた。
(あ、よく見たらフランクスの瞳は紫色だった……だからマリア王女には珍しく紫色を選んだんだ)
彼女は普段パステルカラーのような淡い色を好むけど、初めて公の場でフランクスと一緒に出席するならば…とわざわざ紫色にしたんだ。それを思うと、なんだか彼女が健気で胸がキュッとなる。
「マリア、おまえデビュタント(王侯貴族の令嬢や子息が公の場で社交界デビューすること)もまだだろう?父上の許可は得たのか?」
兄であるアスター王子が当然の疑問をぶつけたが、マリア王女は満面の笑顔でとんでもない発言をした。
「いや、しておらぬ!父上に話が行けば止められるのはわかってるからのう」



