やはり高すぎるプライドと貴族令嬢としての誇りで、ローズ嬢は男爵令嬢程度のわたしと会話をする気は無いらしい。
それでも、わたしはひと言言わずにはいられなかった。
「それは失礼しました。ですが…あなたがなんだかおつらそうに見えたのです。余計なお世話かもしれませんが、もしなにか困ったことがあれば遠慮なくわたしにおっしゃってください。これでも近衛騎士を目指す者ですから、なにかお力添えできるかもしれません」
騎士を目指すわたしからすれば、侯爵令嬢であるローズ嬢も護るべきひとだ。もちろん、騎士を目指す以上は身分血筋関係なくすべての人を護るけれども。
今は、なんとなく危うい彼女が気になる。
ローズ嬢は一瞬、ほんの一瞬だけど……わずかに目を見開いて、少しだけ瞳が揺れた気がする。唇も微かに開きかけたけれど…すぐにキュッと固く閉じて、キッとわたしを睨みつけてきた。
「余計なお世話です!わたくしはなにも困ってなどいません。あなたに話すようはことは一切ありませんわ!」
(強がっている…今、無理に聞き出すのは逆効果っぽいな)
「わかりました。無理を申し上げまして申し訳ありません。ですが、わたしはいつでもあなたをお助けしたいと思っていますから、いつでもおっしゃってくださいね」
わたしが本心からそう伝えておくと、ローズ嬢の肩がピクリと揺れる。今度は反論が無いからそっとしておいた方がいいと判断し、アスター王子を促した。
「アスター王子、行きましょう」
「あ、ああ……」
神妙な顔をしていたアスター王子も今のやり取りでローズ嬢の事情を察せただろう。わたし達が歩きだしても、こんどはローズ嬢は邪魔をせずにそのまま通り過ぎることができたけれども…すれ違う瞬間、ボソリとローズ嬢が小さく何かを呟いた。



