父親のバーベイン侯爵の言葉により、ローズ嬢が静かに歩を進めてドレスをつまみ上げる令嬢の挨拶をした。
「ご無沙汰しております、アスター殿下。わたくしでよろしければ今宵のご案内役を務めさせていただきますわ」
父親に似た赤みがかった艶やかなブロンドを結い上げ、薔薇を模した金の髪飾りにはこれみよがしと宝石が。身につけた赤いドレスも派手なレースでデコレーションされて、薔薇のコサージュが宝石とともに散りばめられている。首や手首や耳や指先まで、これでもかと飾り立てられて…。
この派手さは今夜の令嬢の中では一番だろう。目立つことは間違いない。
……というか、今の父娘の言動だとわたしの存在は無いものとして扱い、アスター王子のパートナーをローズ嬢に…というところだろう。
古典的で地味ながらなかなか大胆な嫌がらせだ。
(まぁ、わたしにとっては全然嫌がらせにならないけどね。次はどんな手で来るかなー)
こっそりと耳をほじりながらわざとらしい三文芝居を眺めていると、前にいるアスター王子の空気がフッと変わったのを感じた。
「……ローズ嬢の案内は不要です」
「え」
「バーベイン侯爵」
「……!?」
「私に婚約者がいるのを知りながら、その態度ですか?」
アスター王子の声から親しみや温度が消えて、冷たく醒めた言葉に目の前のバーベイン侯爵が顔色を失った。
「どうやら、あなたがたの目には私の大切なミリィが映らないらしい。ならば今宵出席する意味はありませんね?」



