「ミリィ、支度はできたか…」
エスコートのためにアスター王子が迎えに来たのだけど、なぜかわたしを見た瞬間ぴしりと固まった。
わかりやすい反応に、思わずからかう気持ちが湧いてくる。
「…なんでフリーズしてるんですか?やっぱりぼくにドレスは不適当だからでしょうか?」
「い、いや…違う!」
焦った彼は、やたら大きな咳ばらいを何度かしてから
、ゴニョゴニョと小声でなにやら言ってくる。
「そ……その、ミリィ……き、き、き……」
「き?木でも植えるんですか?」
「違う!その……ゴホン!ミリィ……ど、ドド…ドレ……」
「ドレ?ミファソラシド…音名ですか?」
「だから、違う!」
ますます焦るアスター王子を見るのが楽しい、なんてことは内緒ですよ。
彼の言いたいことはわかってる。
わたし自身自分の容姿はお母様似だと理解しているから自分を卑下するつもりはないし、もし誰かに不細工だとからかわれたり悪口を言われても、受け流す自信はある。
自分を自分で否定することは、わたしを産んでくださったお母様を否定することにもなるのだから。
「ゴホン……ミリィ」
「はい」
「そのドレス……良く似合ってる……」
「はい。ありがとうございます。アスター王子も不思議とかっこよく決められましたね」
よくできました、とアスター王子に拍手をしたい。
本当に彼は不器用で、スマートな表現ができないひとだ。
でも、だからこそ放たれたひと言ひと言が嬉しくて胸にジンとくる。
息をするようにうわ言をほざくレスター王子の言葉よりも、その重みが違いすぎた。



