宿舎の部屋に戻り、武器や鎧の手入れをする。
木のたらいにチェインメイルと砂を入れ、木の棒でかき混ぜる。金属製の鎖で編んで作られているから、サビや汚れを落とすのに、この方法が一番効率的だ。砥石なんて使えない。
「ふう…これくらいかな」
自分のチェインメイルも手入れするから、これだけで大仕事だけど。従騎士になったからこそ任された仕事。責任を持ってやらなきゃね。
後は切れた部分があったら補修して、油を塗り乾かしておく。次はプレートアーマーも手掛けたいな。
刃物系の武器の手入れもしっかりしないと、上司がいざ戦う時に実力が発揮できなくなる。生死を分ける事態にもなりかねないから、手を抜くわけにはいかない。
剣の手入れはひとまず砥石を使って砥いでから油を塗り、最後には羊毛で拭き上げる。ピカピカになったら気分もいい。
(にしても、アスター王子の剣ってあんまりひび割れや欠けがないんだよね?)
剣の腕が良いからなのか、それとも素材や製法がいいからか。一見他の騎士と同じ素材と製法に見えるけど……?
(わたしも、剣を大切にする騎士になろう!乱暴に扱ってすぐだめにしないように)
従騎士のわたしたちはまだ本物の剣の携帯は許されてない。訓練時も刃を潰した摸造剣しか使えない。
だから、本物の剣を見るといいなと思うし憧れるけど……そのずっしりした重みと白刃の輝きを感じると、それが人を…命を傷つけるものだと実感してしまう。
人の、命を奪うもの。
甘ったるい憧れで騎士になるつもりはないけれども、剣を前に微かに手が震えた事実は否定出来なかった。



