ぴしっと音が聞こえそうなくらいアスター王子が硬直してるのを見て、可笑しくて笑えそうになる。
当然だけど、まだ子どものわたしよりも大人の男性であるアスター王子の方が大きな手をしている。それだけでなく、幼少から騎士を目指し研鑽を積んで実戦で鍛えただけあって、全体的に厚みがあり節くれだって古傷もある。
温室培養の弟のレスター王子の手は見ただけだったけど、貴婦人のように華奢で滑らかな肌をしていた。たぶん、理想の王子様なら細身で華奢なレスター王子の方が人気が出るだろう。見た目だけ、ならば…。
でも、わたしは…。
アスター王子の手の方が好きだ、と思う。
この手になるまで、どれだけ剣を振ってきたんだろう。
時には戦う時に人の命さえ奪う事もあっただろう。
生半可な覚悟では、騎士になどはなれない。
きっとアスター王子ならば悩み葛藤をして……それでもやむを得ず決断をして、なんだろうな。
悔やむ事もたくさんあったはずだ。
英雄と祭り上げられたところで、アスター王子は浮かれたことはない。むしろ嫌そうな顔すらしていた。
本来は、ひとの命を重んじる優しいひとなんだ。
だからこそ、わたしはこの人についていきたい…と思った。
「アスター王子、もしも苦しい時はわたしに素直におっしゃってください。悲しい時も悩みも……わたしは、あなたの苦しみを分かち合いたいです」
本当に、驚くほど素直にそんな言葉が出た。



