「いただきます」
それならば、とお行儀を気にせずに気になるものから手にする。色とりどりのスイーツはどれも美味しそうだけど、わたしが気になったのは地味な色のお菓子。
ボール状の単なる焼き菓子だけど、なんだか見覚えがあるように感じて一番に手を伸ばした。
サクッとした生地にシナモンとはちみつの風味がよく薫る。中には蜜を絡めたナッツがたっぷり。シンプルだけど懐かしい味に、思わず頰が緩んだ。
「……これ、ぼくが育った地方の伝統的なお菓子です。5つまでいた乳母がたまに作ってくれました」
貴族令嬢らしくなさい、と口酸っぱく言い続けた乳母。相当手を焼かせてしまったな…と懐かしく思い出す。
じゃじゃ馬の見本のようなわたしは、貴族令嬢のための教育からは一切逃げ出して外で走り木剣を振りまわしていた。
「やっぱり美味しいですね」
ハーブティーと合わせると、シナモンやはちみつナッツの風味がより引き立つ。気がつくと、そのお菓子ばかり食べていた。
「あ、すみません。アスター王子も召し上がってくださいよ。これじゃぼくが食いしん坊みたいじゃないですか」
「いや、いい。オレはミリィが幸せそうに食べてる姿を見られただけで満足だから」
「………」
なんだかアスター王子が微笑みながらおかしなことを言ってきた。言葉通りに本当にこちらを見る目は満足気で……。
こそばゆいような、落ち着かないような。不思議な気分になる。



