「ひとまず、今はなにもかも忘れろ。ほら、来たぞ」
アスター王子が言うとおりだ。休憩しに来ているはずなのに、すぐにあれこれ悩んでしまうのは悪い癖。
このティーハウスはハーブティーもだけど、手作りのスイーツも有名らしい。アスター王子が注文したメニューを店員さんがワゴンで運んで、わたしとアスター王子の座る席に提供していく。
(メニューを選ぶ時も種類がよくわからなくて、結局全部アスター王子にお任せだったからなあ…)
たぶん、貴族令嬢は常にお茶会やら何やらでお菓子やお茶には詳しいだろう。ここでも知識や経験の差がついてしまっている。
(い、いけない…また落ちそうになってる!わからないならば、経験し勉強すればいいだけだ)
どうも最近自分の貴族令嬢としての知識や経験不足が露呈してしまう事が度々あり、落ち込みそうになるけれども…それならば今から努力して取り戻すしかない、とそのたびに開き直っていた。
「よしっ!」
気合いを入れるために自分のほっぺたを両手でバチンと叩く。
(気弱は厳禁だ!エストアール家の家訓は努力と根性と気合い。それを忘れるな)
「相変わらず突拍子もないことをするな、ミリィは。ひとまず飲んでみろ」
「あ、はい」
苦笑いするアスター王子に勧められ、淹れたてのハーブティーが入ったティーカップを持ち上げる。その瞬間、ふわりと甘いような香ばしいような薫りが鼻をくすぐる。それだけで不思議と気分が落ち着くけど、実際ハーブティーを口にすれば、暖かなお茶は身体だけでなく心まで染み込むような優しい味がした。



