「ミリィ」
「はい、なんですか?」

アスター王子が珍しく真剣な声で呼ぶから顔を上げると、彼の澄んだ青い瞳がまっすぐにわたしを見ていて、ドキンと心臓が跳ねた。

「おまえだから、オレは婚約したんだ……でなければ、一生独身でもよかった」
「……」

なんだろう?
アスター王子がすごく大切な話をしてくれているのに、心臓がざわざわしてそわそわと落ち着かない気分になる。
身体の真ん中辺りがむず痒いような、それでいて真綿に包まれるような。

「正直、オレは女はどうでもいいと思ってきた。王子だから婚約者がいるのは当たり前だとか……古い価値観だと思ったし、好きになる女もいなかった……でも、今はおまえと出逢えた」

そっと、アスター王子がわたしの背中に手を回してくる。セクハラと騒ぎたくても、なんだろう?触れられた背中から伝わるぬくもりが心地よくて、身体が軽く痺れたように動かない。

「……まだ、今は無責任な事は言えない。不甲斐ないかもしれないが、すべて決着を着けてから言わせてもらう。だが、オレの心はすべておまえにあることだけは憶えておいてくれ」

そっと、壊れ物を扱うように優しく抱きしめられた。
決して強引ではなくて、アスター王子らしい思いやりあふれた抱擁。

でも、それだから百の言葉よりも、彼の心がわかった。

彼は、本気でわたしを必要と想ってくれているのだ……と。

「……はい」

胸が詰まったように言葉が出ない。小さな声で、そう答えるだけで精一杯だった。