お手伝いのあとは、そのまま王宮で司祭様の授業を受ける。騎士に必要な心構えや教養を勉強できるから、毎回楽しみ。
「よ!ミリィ」
「おはよ、フランクス」
講義のある講堂で片手を上げて挨拶してきたのは、従騎士仲間のフランクス。一つ年下だけど、従騎士としては先輩だ。茶色の地味な髪と紫色の優しそうな瞳を持ってる。剣の腕を見込まれて農民の息子から男爵家の養子になったから、出世したいと意欲的だ。高所恐怖症でもある。
わたしがレスター殿下の婚約者時代から親しくしている、唯一無二の親友だ。
「今日はいよいよドラゴンの講義だな!楽しみだぜ」
フランクスのテキストを捲くる手が軽やかだ。そりゃあそうか。以前から、ドラゴンを倒しても出世して英雄を目指したいって言ってたからな。
「そうだね。ぼくも楽しみだよ」
なかなか出会えない幻獣。去年は奇跡的にユニコーンと関わったけど、本当はめったに逢えないんだよね。
「さて、本日は幻獣のドラゴンについてです。アリューシャの英雄の話は有名ですが、皆さんに心に刻んでいただきたいのは、ドラゴンも生きとし生けるもののひとつ、ということです。確かに力は強大でありますが、理不尽な理由で暴れたりはしません。理知的存在であり、対話により解決する方法があるという点です。人間の身勝手な理由で屠ることがありませんように」
(なるほど……ドラゴンは会話できるんだ)
やはり司祭様の授業はためになる。もしも相対する機会があったら、きっとそうしようと心にしっかり刻んでおいた。



