「……本当にお風呂があるんだ……」
庭の見慣れない石造りの建物の中に、かなり広い湯船が設置されていた。確か1年前はサウナのような蒸し風呂しか無かったはず。ソニア妃が目覚めてからこの1年で造られたということだろう。
とはいえ、わたしは実は温泉が好きだったりする。
普段は水で身体を拭く程度だけれども、お父様の領地では少し離れた河原で天然温泉が湧く土地があり、自分で掘れば入浴できてしまう。
だから幼い頃から男友達と遊んだ後には、温泉を掘って浸かっていたんだ。
実家のお屋敷では薪から大量のお湯を沸かす手間を考えたら、とてもお風呂なんて贅沢は言えなかったし。
「近くに湯量豊富な源泉が発見されたのですわ。引き込むのに魔術を使っておりますが、疲労回復などになかなか効能の高い泉質なのです」
「へぇ、そうなんですか」
マイルさんの説明を聴いて、否が応でも期待が高まってしまう。わくわくが止まらない。
湯けむりの中でシャツを脱いでマイルさんに預け裸になると、そっと湯船に足をつける。
(あったかい。うん、水温は大丈夫だ)
あまり高めのお湯は苦手で、長時間入れない。せっかく1年ぶりにたっぷりのお湯に浸かれるんだから、少しでも長く楽しみたい。
「ふー……」
ゆっくりゆっくりと身体をお湯に沈め肩まで浸かると、自然と大きく息を吐いてしまう。
お湯に包まれじんわりと芯まで暖まる、この感覚が好きだった。
「お、ミリィも来たんだな!」
聞き慣れた声が響いて反射的に振り向けば、湯船の縁に身体を預けたピッツァさんの姿があった。



