「ミリュエール様、おはようございます…って…もうお支度されたのですか。お早いですね」

ドアノックをされたから返事をしたら、焦げ茶色の髪をゆるく編んだ侍女が頭を下げてから部屋へ入ってきた。
紺色のワンピースと白いエプロンというクラシカルな制服に身を包んだ彼女は、マイルさんという侍女。二十代半ばという若さでアスター王子専任の侍女を束ねる侍女長だ。
去年このタウンハウスにやってきたときにもお世話になってる。

「マイルさん、おはようございます。騎士ならこれくらい当然ですよ」

わたしが目覚めたのは午前4時。夏の早い夜明け前に支度するならば、これくらいでないと間に合わないから、自然とこの時間に目が覚めるよう習慣化している。今は午前6時前だ。

「ですが、今日から3日間はお身体を休めるための休暇ですよ?アスター殿下もまだ御休みですから、ミリュエール様ももう一度御休みになられてはいかがでしょうか?」

室内でもじっとしていられなくて身体を動かすわたしに、苦笑いしながらマイルさんがそう提案してきた。

「え、別に……もう必要最低限の睡眠は取りましたから」
「必要最低限、ですよね?本来、人間は6時間から8時間の睡眠が必要と言われているのですよ。ミリュエール様もここに来た時くらいは、羽根を伸ばして好きなだけお眠りいただいて構わないのですよ?」
「…そう、ですか?でも、ついついいつもと同じことをしないと落ち着かないんですよね」

マイルさんの提案はありがたいけど、いざ普段と違うことをしろと言われても……困惑してしまうんだ。