「中年の太ったおじさんだよ。ボクに賢そうだと声を掛けてきたんだ。だから奢りで一緒に呑んで…楽しかったな。そうそう、女の子も紹介されたんだ。けど、ミリュエール。君の方が美しいから浮気はしなかったんだよ。どうだい?ボクは誠実だろう……気がついたら朝、宿屋のベッドの上だったけどね」
やっぱり頭が空っぽなレスター王子は、なにも考えずにぺらぺらと得意げにあれこれ話してくれる。
「……やっぱり、バーガが!」
予想どおりに、ボール公爵のどら息子が良からぬことを始めているっぽい。ボール公爵なら絶対そんなことはしないし、おべんちゃらも言わない。良くも悪くも正直なおじいちゃんだから。
(アスター王子に早く知らせないと……たぶんまずいことになる)
わたしの勘が告げてきた。これは放置できない事態だ、と。そのままにしておけば、国家存亡に関わる事態になりかねない。
「ミリュエール、黙ってどうしたんだい?ああ、ボクが浮気したかと心を痛めているんだね?大丈夫、ボクは他の女なんて目に入らないよ。キミだけだ」
なんかうわ言を続けているバカ王子は放置して、すっくと立ち上がったわたしは一度だけ頭を軽く下げる。
「急用ができましたので、御前を失礼いたします」
急ぎ足でアスター王子がいるであろう場所へ向かう最中、廊下で意外なひととばったり会った。



