5月に入り、暑くもなく寒くもなく。個人的には一番いい季節が巡ってきた。
日の出が早いから、早起きしても明るいのがありがたい。

「よっ、はっ、ほっ!」

午前5時。
体力を上げて脚力を鍛えるためのランニングで、旧き森に近い丘陵地まで走ったあと、ついでに不得手な崖登りの練習。傾斜が緩いから、トレーニングには最適だ。
そして、そのときにはすごい観客が鎮座ましている。

「よっ……と、ふうー……やっと登りきれた!」

丘陵地の丘で補助具なしの登坂を試みてきたけど、今日ようやく成功した。ここ1か月チャレンジしてきたから、達成感が半端ない。
半袖シャツと短いズボンは汗だくで肌に張り付くし、疲労感もあるけれどね。

そんなわたしに、重厚な声が近くで響いた。

『ミリュエールよ、ようやったな。この1か月頑張ったではないか』
「うん……あなたもアドバイスと見守りありがとうね、ブラックドラゴン」

わたしのすぐそばの丘の頂きには、先月王宮を襲撃したブラックドラゴンの姿があった。
齢はまだ数十年の幼竜だけど、20メートルを超える巨体と迫力でとてもそうには見えない。老獪さや落ち着きもある。
ブラックドラゴンは王宮襲撃の咎を王国を護る龍となる事で不問にされた。実は、彼は千年龍の息子という事で、生まれついて他のドラゴンが従う長龍という地位が約束されているらしい。つまり、彼がゼイレームを護ると誓約したならば、他のドラゴンもそれに従いいざことが起きればゼイレームの味方となる…ということ。それは、たぶんすごいことなんだろう。

それは確かに心強い。でも、それは本当に最後の手段。
王国を護るのは、まずわたしたち人間の役割。
さらに言えば、騎士や兵士たち。

わたしたちが、みんなを護る盾になるんだ。