「最近、わたしの周りにレスター殿下の姿が見え隠れするようになっているんですが」
わたしがそう告げた途端、なぜか会場の空気が凍りついた。
そして、漏れなく皆から怒気や……一部だけど殺気すら孕んた剣呑な空気が流れはじめる。
国王陛下が確認するように質問をされてきた。
「ミリュエールよ……それは本当かね?」
「はい。今のところ仲間に協力いただいて回避してはいますが、ここ半月ほど頻繁に姿を見かけるようになりまして。仲間からの噂ですが、殿下は変装をして街にも出没しているようです」
「……噂のそれは知っている。侍従長より報告を受けたばかりだ」
眉間にシワを寄せた国王陛下は、そこに指を当てて嘆息された。本当に、いい年していつまで親に迷惑をかけ続けるんだろう。あの王子は。
国王陛下は2度長いため息をつかれてから、苦悩に満ちたお顔で謝意を表された。
「ミリュエールよ……すまぬ。息子に代わって謝罪させてくれ」
「い、いいえ!とんでもない。わたしなら大丈夫です。それより、陛下ともあろうお方がわたしなどに謝られる必要はありません。もとより、これはレスター殿下御本人の問題ですから」
「ミリィ」
なぜか急に、アスター王子が口を挟んできた。反射的に彼を見れば、彼は微笑んでいる……けれども、それはどこか冷たく、ゾッと背筋が寒くなるようなもの。
「なぜ、オレに言わなかった?」
「え、だってアスター王子、忙しかったじゃないですか。従騎士の分際で邪魔なんてできるはずないですよね?それに、あの王子ならもし遭遇してもきちんと対応できますから大丈夫ですよ」



