「父上、フィアーナ側からはこの縁談は必ず断られるでしょう。ご心配には及びません」
アスター王子がずいぶん自信満々に国王陛下に言い切るけれども、わたしにはどうしても疑問点が出てしまう。
「アスター王子、なんの根拠があってそう言えるのですか?」
「それは、レスター兄上の普段からの行いを見ていればわかるだろう。それに、オレがレスター兄上の素晴らしい話をあちこちにしておいてやったからな」
「素晴らしい話…?」
はて? レスター王子関連で、今までなにかよい話はあっただろうか?? 思い当たることがなくて首をひねっていると、アスター王子がこう告げてきた。
「ミリィ、忘れたか?1ヶ月ほど前に兄上が宮中で騒ぎを起こしたことを」
「……1ヶ月まえ……あ!」
そういえば、そうだった。
わたしが侯爵令嬢に絡まれていた時、レスター王子まで絡んできてややこしくなって…挙句の果てにレスター王子はわたしと間違えて女官のジニさん(68歳)を抱きしめて求愛し、アスター王子にからかわれた彼は逆上して抜刀騒ぎを起こしたんだ。
あのとき、咄嗟の機転でアスター王子が庇わなければどんな咎を受けたかわからなかったのに……それすら理解してないレスター王子は、ただ子どもっぽく弟のせいにして騒ぐだけ。彼のダメさ加減が際立った事件だったのだけど。
「あのとき、多数の目撃者がいただろう……だから後から念を押して言ってやったんだ。“兄上は実はジニどのを本気で愛しているようなので、年齢差や身分差を気にしているようだ。ぜひ、応援してやってくれ”…とな」
「……それって」
「ああ。1ヶ月経っているのだから、噂はしっかりとフィアーナにも届いているだろうな」
68歳の愛人がいる王子に、愛娘を嫁がせる親はいないだろう。……とうに先手を取っていたのはさすがですが……なんだか腹黒さを感じる笑みですよ、アスター王子。よほど愚兄へのフラストレーションが溜まっていたようですね。



