後ろにいたアスター王子が模造剣にかかったわたしの手を押さえ、注意してきた。
「ミリィ、やめろ。そんなふうに大切な親と仲違いするものじゃない」
「いいえ、これはあなたの名誉の問題です。大切な人たちだからこそ、わたしは曖昧にしたくはありません。エストアール家はずっと剣で語ることを家訓にしてきましたから」
ぐぐっと目に力を入れてお父様を睨みつけると、お父様も負けずに睨みつけてくる。
そんなふうに一触即発の事態で緊張感が高まっていくなか……。
突然、お父様の体が揺れて鋭い音が響き渡る。
何事か、とよくよく見れば、お母様がお父様の前に立ち、叱責されていた。
「あなた、いい加減にしなさい!娘がかわいすぎるのはわかりますが、もっとアスター殿下を信用なさったらいかが?親の行き過ぎた干渉は娘に嫌われる要因になりますわよ」
びっくりした。
まさか……あのお淑やかを体現したようなお母様が、夫を平手打ちするなんて。よもや思いもしなかった。
「マリアンヌ……」
お父様もようやく激昂が鎮まったのか、憤怒の表情は消えていつもどおりのお顔に戻られている。どころか、少々眉を下げてなんだか叱られた子どものような……こんなお顔を見るのは初めてだ。
「わたくしは、アスター殿下を信頼しておりますわ。だって、娘のミリィがあれだけ信用しているんですもの。他になんの理由がいるのでしょうか?
アスター殿下を信用しないということは、ひいては娘を信用しないということなのですよ」
だめ押しでお母様がそうおっしゃると、お父様はしおしおと萎れた菜っ葉みたいに肩を落として頭を下げた。
「確かに、そうだ……アスター殿下、申し訳ございませぬ」
お父様はその場で膝を着くと、左胸に右手を当て頭を
下げる。それに加えて、左手は地面に。
アスター王子がしたよりも深く謝意を表す騎士の礼だった。



