公的な場では身分の上下で発言権が決まる。序列が3つも上の候爵令嬢に男爵令嬢であるわたしが話しかけるのは許されない。
でも、今の流れから答えても構わないと判断して口を開いた。
「……相応しいとか、相応しくないとかはわたしが判断することではありません。アスター殿下より望まれての縁談で、すでに婚約は成立してますので」
まさか、わたしが反論するとは思わなかったんだろう。ぴくぴくとひきつっていたローズ様の口元が不自然につり上がった。
「……まあ、さすが男爵家で粗野な男の子の真似事をなさってらっしゃるだけあり、わたくしの親切なアドバイスもわからないようですわね?
レスター殿下に婚約破棄された瑕疵があり、しかも男爵令嬢程度の身分で将来国王陛下となられるアスター殿下の王妃にでもなるおつもり?なんと図々しいのかしら…」
ローズ様のおっしゃる通りに、ちょうど一年前。王宮のセイレーンの大広間にて国王陛下の御即位20周年を祝う祝宴の最中、この国の第2王子レスター殿下はわたしとの婚約破棄を宣言された。
おまけに社交界から追放という処分を言い渡されたため、エストアール男爵家は貴族としてほとんど価値がなくなったも同然。
それゆえ、唯一の子どもであった娘のわたしは貴族令嬢として普通の結婚などのぞめない。
だから、男爵家を継ぐべくかねてから希望だった騎士になるため騎士見習いとして近衛騎士団へ来たんだ。
そしてなぜか、仕えたアスター殿下に従騎士と同時に婚約者にされたんだよね。自分としては、未だに意味不明。
たぶん、こうしたローズ様のような令嬢避けとは思うけど。



