【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


アスター王子は悪くないと言いたくてそう説明したのに、なぜかお父様の殺気がますます増した気がする。

「……やはり……夜な夜な娘をベッドに連れ込んで慰み者にしているのですか?」

お父様は口調こそ冷静ではあるけれど、今まで見たことがないくらいに激昂されている。それは娘のわたしを思うあまりで、嬉しくはあるけれど……。

「エストアール卿」

戦場で敵を震え上がらせたお父様の鋭い眼光も覇気も、アスター王子には通じない。彼は冷静そのもので、何も怖気づくことはなかった。
むしろ、あえてお父様に歩み寄って目の前に立つと、ゆっくりとつり上がった双眸を見据える。

「確かに私も一人の男ですから、彼女への過ぎた想いに揺れる時も煩悩に悩む時もあるのは事実……ですが、天地天命に誓って、そのような扱いをしようと思ったことはありません……なぜなら、一番大切にしたいひとだから、です」

一度瞳を閉じたアスター王子が小さく息を吐いて再びまぶたを開くと、なぜかわたしを見る。その眼差しはとてもあたたかく、そして熱さも孕んでいるように見えて……わたしの鼓動が跳ねた。

「ミリィはまだ、子どもです。私は、彼女に無理強いし自分の欲だけを満たそうとは思いません。ゆっくりと理解していけばいい。そして、彼女が望んだ時に初めて応えようと思います」

そして、彼はその場で膝をつくと頭を下げて手に胸を当てる。騎士としての正式な謝罪だった。

「……ですが……そのような下世話な噂を立てられたこと事態、ミリィにとって不名誉なこと。騎士として、婚約者として不徳の致すところ。申し訳ありません」