すると、お父様の後ろにいたレトムが口を挟んできた。

「心配するな、ミリィ。その時のためにオレが養子入りするんだからさ。妹か弟がエストアール家を継ぐなら、義兄として支えるし……もし拒むならオレが継ぐ」
「え、そうなの?」

驚いて彼をまじまじと見れば、レトムはニッと笑って目でお父様を示した。

「ああ。おじさんはずいぶん前から話を持ってきてたよ。“娘が家に縛られず自由に生きられるようにしたいから”……ってさ。まあ、オレも後ろ盾は欲しかったし、渡りに舟って事で喜んで承諾したけどな」
「…………」

まさか、お父様がそこまで先回りして考えてくださっていたなんて……。
胸がじんわりとあたたかくなって、涙が出そうなくらいに嬉しい。
お父様は真相をバラされたからか、ムスッとして不機嫌そうな顔になっているけれども……娘だからわかる。これは、照れ隠しする時の表情だ。

「お父様……そこまで考えてくださっていたんですね……ありがとうございます」
「ゴホッ……い、いや。親として当然のことをしたまでだ」
「おじさん、照れてる、照れてる!あの鬼教官が娘には甘いって知ったら、従騎士時代の同僚たちはどんな反応するか見たいわー」
「ば、馬鹿な事を言うな!」

レトムのからかいにお父様はさらに渋面を作るけれど……ほんのりと頬が赤くて。なんだかかわいすぎる。言ったら怒られるから、言わないけどね。

「だからな、ミリィも好きに生きろよ。家だけに縛られるな。オレが責任持ってエストアール家を護ってやるからさ」

レトムが幼い頃と同じように、大きな手で髪の毛をクシャリとかき混ぜてきたから。懐かしくてつい、「もう、やめてよ!」とふくれっ面を作ったら……彼はなぜか楽しそうに笑う。

「お〜、見てるな。めっちゃ睨んできた。わかりやすいわー」