エストアール家にとってこの上ない慶事に、ほわりと心があたたかくなる。

「お母様、お父様。おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
「ミリィ…ありがとう」

花が綻ぶようなお母様の笑みに、本当に嬉しい気持ちが現れている。それもそうだ。お母様は本来子ども好きで、なるべく多く子どもが欲しかったらしいのだから。

(弟か妹ができるんだ……)

それはわたしにとってもとても嬉しい出来事だし、家族が増えるのは幸せだ。
けれども同時に、その子は生まれた時からエストアール家の跡継ぎとなる。

わたしがアスター王子と一緒にいる人生を選択したために、望む望まないに関わらずその子にはエストアール家の家督を継ぐという使命が課せられてしまった。

もちろん、わたしからすれば本人の意思が大前提。その子が拒否するならばわたしは受け入れるし、なんらかの方法で今から跡継ぎ問題を考えておかねばならない。

(わたしがわがままを通すばかりに……産まれる前から姉として情けないよね)

ギュッと胸のあたりで拳を握ると、一度目をつぶって深い息を吐く。そして、顔を上げてお父様へ声をかけた。

「お父様、お話があります」
「……エストアール家の跡継ぎ問題のことか?」

いきなり本題を言い当てられて、さすがお父様と感心したけれども。今はそんな場合じゃない。

「はい。産まれる子はエストアール家の跡継ぎという立場ですが……その子がもしも拒否をした時の事を考えまして。わたしとしては、弟でも妹でも強要はしたくはないのです。……跡継ぎとなると公言しておきながら、自ら放棄した馬鹿なわたしが言える事ではありませんが……」