「……騎士見習いとしては許される限り騎士のあなたにお仕えしたいと思います。でも、王子殿下の婚約者としては……まだ、わかりません」
「……そうか」
アスター王子は小さく息を吐くと、顔から片手を外してわたしに謝罪してきた。
「急にこんな事を訊いてすまない。だが、春先に父上が一時的に寝付いて以来、宮廷で不穏な動きがあるのも確かだからな」
アスター王子がおっしゃる通りに、国王陛下は2月にご病気で床に伏された。あくまでも一時的なもので、すぐに回復されたけれども…。国王陛下ももう50近くであられ、お年を考えると様々なご病気を抱える可能性が高い。となると、次の国王となるべき王太子を決める必要性が出てくる。
第1王子アルベルト殿下は公爵家に婿入りするし、第2王子レスター殿下はああだし、第3王子アスター殿下は現役騎士。現在宮廷ではレスター王子派とアスター王子派とに支持が分かれているらしい。
レスター王子はあれでも他国の王族の血も引いてるし、何より王妃様の長子。身分血筋に不足はないし、傀儡の国王を立てて政治を牛耳りたい連中には格好の獲物だ。そして、レスター王子が国王陛下になったら暗愚な王になるのが目に見える。
わたしとしては、アスター王子の方がはるかに相応しいと思うし、名君になるだろうけど……。
なんだろう?
なにか、さびしい…ような?
アスター王子がわたしと離れることを想像したら、心が沈むような…虚しさのような。不可思議な気持ちになった。



